『素問』運気論にみる2025年

 2025年が始まってからもうすでに2週間。本当に月日が経つのは早いものですね。ですが、東洋医学の世界は旧暦合わせですので、カレンダー(太陽暦)では2025年1月ですが旧暦ではまだ2024年の12月ということになります。

 今日は大寒!というタイミングで、『素問』運気論にみる2025年はどういう年なのかを整理したいと思います。(運気論では1年は大寒から始まります)

1.『素問』運気論とは

 まずは『素問』と運気論の説明を簡単に。

 『素問』は後漢頃に基本形が成立したとみられる中国最古の医書。鍼灸界のバイブル的存在。24巻。内容は、陰陽、五行、蔵府、経絡、病證、脈診、兪穴、鍼灸、運気、養生など多岐にわたります。全体は81篇からなり、そのうち66【天元紀大論六十六】〜74【至真要大論七十四】が運気論、または運気七篇(72刺法論と73本病論は亡失)と呼ばれています。

 運気論では、五運(木火土金水)と六氣から導かれたその歳ごとの性質をまとめています。この運気論は何のために必要かというと、医家にとってはその氣運に沿った補瀉をするための重要な論であるとしています。(『素問入式運気論奥』序に「氣運最も補瀉の要と為す」とある)

 注)運気論はあまりに理路整然と内容が整理されているため、『素問』への後付け説あり!

2.簡単に運気論の内容を説明してみる(興味がある方だけでOK)

 次に運気論はどういう仕組みになっているのでしょうか?まず運気論では主に十干、十二支、五運、六氣、歳月、日時で構成されています。

  • 十干→甲(きのえ)、乙(きのと)、丙(ひのえ)、丁(ひのと)、戊(つちのえ)、己(つちのと)、庚(かのえ)、辛(かのと)、壬(みずのえ)、癸(みずのと)
  • 十二支→子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥
  • 五運→木(春)・火(夏)・土(長夏)・金(秋)・水(冬)
  • 六氣→厥陰(初之気)・少陰(二之気)・少陽(三之気)・太陰(四之気)・陽明(五之気)・太陽(終之気)
  • 歳月→1年12ヶ月
  • 日時→日にち、時間

中でも五運と六気が中心となりますので、こちらを簡単に説明していきたいと思います。

1)五運とは?

 五運には木運・火運・土運・金運・水運の五種があり、それぞれが五行的特性をもっています。また、毎年どの五運が司るかで、気候変化や人体への影響が決まるとされています。

 五運には主運客運があり、主とは固定された運氣のことです。主運は1年を大寒から5つに分けた73日ずつをそれぞれ木→火→土→金→水(→木…)に配置しています。(大寒の何時から1年が始まるのか?もちゃんと設定されています)

十干

 次に客とは1年毎に変わる運氣を示しています。上図のように、五運に十干2つずつが配当されており、毎年代わっていきます。さらに同じ五運に配当されている十干は、同じではなく太過と不及に分かれます。例えば、土運に配当されている甲と己ですが、甲が太過、己が不及です。太過とは、パワーが強く客運が先んじてやってくる年、不及はパワーが弱く客運が遅れてやってくる年になります。

2)六気とは?

 次に六気は厥陰風木・少陰君火・少陽相火・太陰湿土・陽明燥金・太陽寒水の六種であり、四季や干支と結びつき、1年の季節の移り変わりをより詳細にしています。

 六気にも主気客気があります。主気は地の気のことで、地に在って形をつくっています。季節を6つに分け、春(厥陰風木・初の気)→春末夏初(少陰君火・二之気)→夏(少陽相火・三之気)→長夏(太陰湿土・四之気)→秋(陽明燥金・五之気)→冬(太陽寒水・終之気)の固定された循環を示しています。

 一方、客気は天の気のことで、天に在って気を作っています。こちらは十二支によって毎年変化するよう設定されています。何の十二支かによって、その年の客気が分かります。

  • 少陰→子と午
  • 太陰→丑と未
  • 少陽→寅と申
  • 陽明→卯と酉
  • 太陽→辰と戌
  • 厥陰→巳と亥

 そして、3番目の気(三之気)を司天6番目の気(終之気)を在泉と特別な名前があり、その1年を占う司天には、それぞれの十二支と結びついた三陰三陽が置かれます。以下の図は十二支全ての司天と在泉を表しています。

 上図で2025年の巳年は右側下の図になります。内側から2番目の円の上に「天」と書いています。これが司天のことで、巳年亥年の司天は厥陰となります。

3.2025年はどんな年?

 ここから2025年の話になります(やっと!)。今年は乙巳(きのとみ)年。乙は図でいうと五運は金運。それぞれにパワーの強(太過)弱(不及)があり、下の円グラフから乙は不及と分かります。よって、2025年は金運不及の歳となります。五行の相剋関係でいうと、金が弱く、木と火が強くなる年となります。また、不及の年は、さまざまな自然現象が遅れてやってくるとされています。

六十甲子表ー鍼屋岩田

金運不及についての記載は『素問』氣交変大論篇第六十九にあります。

歲金不及なれば、炎火廼ち行わる。生氣、廼ち用ゆ。長氣、專り勝つ。庶物以って茂り、燥爍以って行わる。上、熒惑星に應ず。民の病、肩背瞀重し、鼽嚏し、血便注下し、收氣、廼ち後る。上、太白星に應ず。其の穀、堅芒。復たすれば則ち寒雨暴に至り、廼ち冰雹を零し、霜雪、物を殺す。陰厥、且つ陽に格りて、反って上行して、頭の腦戶痛み、延びて囟頂に及び、發熱す。上、辰星に應ず。丹穀、成らず。民の病、口瘡あり。甚だしければ則ち心痛す。

 木気と火気が盛んな年になりますので、春と夏のパワーが強いため植物が繁茂すると書かれています。また民の病として、肩背中が悶えるほど重く、鼻がつまったりくしゃみが出る、血便や下痢になりやすくなります。また、金が弱くなったことで水気が強くなった時は、激しく冷たい雨が降り、雹が降り霜や雪で物をダメにしてしまいます。さらに陰の気が強くなっていますので、冷えのぼせ(厥)のような状態になり、頭痛、頭頂痛、発熱、口のできもの、心痛が起こるとしています。

さらに六気では厥陰司天の年で、こちらは六元正紀大論篇七十一に記載があります。

凡そ此の厥陰司天の政、氣化の運行、天に後る。諸同正歲は、氣化の運行、天に同じ。天氣擾れ、地氣正しく、風、高遠に生じ、炎熱、之れに従う。雲、雨府に趨り、濕化廼ち行わる。風火、德を同じくして、上、歲星熒惑に應ず。(中略)風燥火熱、勝復更も作り、蟄蟲來たり見われ、流水冰らず。熱病、下に行われ、風病、上に行わる。(以下略)

 厥陰司天の年は、さまざまな影響が暦より遅れてやってくるとしています。風が強く吹き、それに炎が舞い上がり、雲が出来て雨をよく降らせ、湿気が満ちる。(中略)風が強く吹く事で燥、火、熱状態となり、冬に冬眠していた蟲があらわれ、流水は凍らない。熱病は下、風病は上に出やすくなる。(以下略)

 (↑以下略の部分には、初の気〜終之気までの起こるであろう事象が少しずつ書かれています。ご興味ある方はぜひ『素問』本文をご覧ください。)

以上が運気論における2025年の予想になります。簡単な訳になりますが、参考になればと思います!

4.まとめ

 結果的に長々と書いて参りました。どの程度の人がこの部分まで読んでいただいているか分かりませんが、運気論はとても機械的な構造だと分かっていただけたと思います。感覚や感情などが入り込む隙は1分もありません。

 最初に運気論は補瀉のためにあると書きましたが、この機械的な構造がどこまで実際の気候や人の体に影響があるのか、楽しみですね‪♪(^ ^)

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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