2024年11月23日(土)・24日(日)に毎年恒例となっている、「第32回日本鍼灸史学会学術大会」で発表した模様をレポート。
1.一般演題20題
まずは、私の演題も含めた一般演題20題についてです。以下は今回のプログラムです(抄録内資料)。
本学術大会では鍼灸の歴史、文献の研究についての発表が主です。鍼灸の歴史・文献は大きく中国と日本のものに分かれます。遣隋使、遣唐使の時代から中国から日本に多くの知識がもたらさました。その中に医療の知識や技術も伝わり、それを日本は取り込み、お互いそれぞれ発展をしてきました。
私は「一般講演4-12.清代の鍼灸第2報〜康熙年間その1〜」をさせていただきました。清代の鍼灸にいっても鍼灸書ではなく、医薬書に載せられている鍼灸の方法を集めて調査をします。北宋代から始めて、長年やっております。思えば遠くにきたものです。
のちに康熙年間(1662〜1722)は、清代で最も繁栄した時代であり、歴代中国の皇帝の中でも唐の太宗と並ぶ名君とされている人物の治世です。その期間中に清代の鍼灸が構築されたのでは?と考えています。61年の長き統治を3つ〜4つに分けて調査予定です。今回は最初の20年を調査しましたが、明代の鍼灸感がまだまだ強かったです。今後の調査が楽しみです。
2.教育講演 「医業類似行為を知る」 坂部昌明先生
次に教育講演「医業類似行為について知る」についてです。
「医業類似行為」…。法律上、私たち鍼灸師やあん摩師、柔道整復師が行う施術は「医業」なのか「医業類似行為」なのか。医師法には以下とあります。
○ 医師法(昭和23年法律第201号)
第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
【解釈】医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
厚生労働省ホームページより
医業を行うことができるのは医師だけであると規定されていますが、昭和22年12月20日に法律第二百十七号として公布、昭和23年1月1日から施行されたあん摩、はり、きゆう、柔道整復等営業法には、
◎ あん摩、はり、きゆう、柔道整復等営業法
第一条 医師以外の者で、あん摩(マッサージを含む。以下同じ。)、はり、きゆう又は柔道整復を業としようとする者は、夫々あん摩師免許、はり師免許、きゆう師免許又は柔道整復師免許(以下免許という。)を受けなければならない。
衆議院ホームページより
とあり、これらの施術者が、その限られた業務範囲内においてではあるが、医業の一部をなし得ることを規定していると、『あん摩、はり、きゅう、柔道整復等 営業法の解説』に書かれております。(↑の写真にて坂部先生が手にお持ちの本です)
なるほど、なるほど、医師だけが行える医業を鍼灸師、あん摩師、柔整師も免許をもらうことでそれが許可されるとなると、医業類似行為とは…?この続きは後日、『あん摩、はり、きゅう、柔道整復等 営業法の解説』を勉強して、ブログにまとめたいと思います。
3.特別講演「中国出土簡牘における算術書〜解読成功の紹介」 大川俊隆先生
最後に特別講演「中国出土簡牘における算術書〜解読成功の紹介」についてです。
先生が研究されていた数や算術を含む中国出土簡牘は以下の通り。
- 『張家山漢墓竹簡』(二四七号墓)・・・『算数書』簡190枚/全1,236枚。
- 『岳麓書院蔵秦簡(弐)』・・・『数』簡220枚/全2,100枚。
- 『北京大学蔵秦簡牘』・・・『算書』甲種235枚、『算書』乙種37枚正背、『算書』丙種66枚、『成田』24枚、『田書』51枚/全761枚。
- (未刊行)湖北省睡虎地の前漢墓から出土した『算術』216枚/全2,137枚。
以上の3書より、先生が数学の知識をもって、秦簡の解読に成功された例をいくつかご紹介いただきました。算術?古代中国でどう使ってるの?と思っていましたが、土地の広さの計測、お墓を作る際に掘り出す土の量とその作業にかかるのべ人数と日数、戦場における兵站の見積り・・・等、生活や戦いに密接に関係がある存在でした。
また、長年土に埋もれた竹簡を解読する作業に算術が役に立つ場面もあるそうです。「六」なのか「九」なのか分からない部分だが、算術の計算を書いている文章中から導きだした計算式から、答えが合う様に読み解くには「六」だとわかった。という例もご紹介くださいました。この時ばかりは、間違いを認めない中国人も認めるそうです(笑)
最後に先生はこの発掘をめぐるビジネスについてもお話くださいました。いわゆる「盗掘ビジネス」です。中国は発掘を進めたいがお金がない。そこで盗掘ハンターたちが盗掘⇨盗品を香港の骨董市場に持ち込む⇨それを大学や財団が買い戻す。という流れになって、ハンターたちに莫大なお金が流れているのだそうです。最近では、爆弾でお墓を爆破してから目ぼしいものを持ち逃げする輩もいるそうで、大変な事態になっているということです。
中には、「盗品は研究対象にしない!」と宣言されている中国の研究者たちもいるそうなのですが、大川先生は「たとえ盗品だろうと新しい出土文物が目の前に出されたら、研究せずにはいられない!」とおっしゃていました。これが真の研究者だなと感心しました。(私も多分同じことをする。)
◆大川先生の興味深いご研究はこちら→中国古算書研究会
以上が2024年日本鍼灸史学会学術大会の発表・参加レポートになります。2025年も変わらず開催予定です!